20年、30年と長い期間返済し続けることになる住宅ローン。返済中は色々なことがあります。その中でも一番困ることは、仕事環境の変化や転職等で、収入に変化があった時でしょう。
意外かもしれませんが、住宅ローンは返済条件を変更したいという相談もできます。また、繰り上げ返済という方法によって、ローンの負担を軽くもできます。ここでは、その手続きや注意点について解説します。
住宅ローンを返済する際の注意点
はじめて住宅ローンを検討する方は、月々どのぐらいの額を返しているのか見当もつかない方もいるでしょう。
まずここでは、住宅ローンの妥当な返済額の目安や、ボーナス払いついて解説します。併せて、住宅ローンを返済中に条件を変更したくなった時の手続きについても解説します。
月々の平均返済額はいくら?
住宅ローンの月々の平均返済額に関して表にしてみましたので、まずはこちらをご覧ください。
物件種別 | 月別返済額1 | 月別返済額2 | 返済負担率% |
---|---|---|---|
注文住宅(建替) | 91.4 | 68.6 | 20.2 |
注文住宅(土地込み) | 109.5 | 82.1 | 23.3 |
建売住宅 | 92.5 | 69.3 | 21.4 |
マンション | 117 | 87.8 | 21.1 |
中古戸建 | 68.2 | 51.2 | 17.8 |
中古マンション | 80.1 | 60.1 | 18.1 |
参考:独立行政法人 住宅金融支援機構 調査部による『2016年度 フラット35利用者調査』
http://www.jhf.go.jp/files/400342360.pdf
「月別返済額1」は、年間総返済額÷12。単位は千円。「月別返済額2」は、これに25%のボーナス増額を見込んだものを月別返済額にしたものです。
また、じぶん銀行のマネーゴーランド編集部が、アンケートアプリ『サーチーズ』で実施した、『ローン返済額みんなの平均はいくら?「住宅購入とお金」全国実態調査』という興味深いデータがあります。
ここには、「最も多かった回答が「5~7万円」が25.9%、次いで「7~9万円」22.7%となりました。9万円以下を合わせると約7割となり、毎月の返済額を10万以内を目安としている方が多いとわかります」とのコメントがありました。
無理のない返済額はいくら?
このデータの、「毎月の返済額を10万以内を目安としている方が多いとわかります」とのコメントは参考になります。
前者のフラット35関連のデータでも、もっとも取得費用がかさむ注文住宅(土地込み)の月当たりの返済額は、全国平均で10万円を超えています。ところが、首都圏(129.5千円)、近畿圏(112.5)、東海圏(114.4)を除く「その他地域」では平均10万を切ります(98.2)。
しかもこの数字はボーナス払い増額分を無視していますから、それを考慮すると首都圏あたりでも実質10万を切るのが平均ではないでしょうか。
実際、お客様との折衝現場でも、月払い返済額が10万を越す提案をするのは、一部の顧客を除くと相当勇気が要ります。営業マンの的外れな資金計画は、顧客から即イヤがられるからです。
やはり、無理のない返済額は10万円未満でしょう。そのため、6万・7万・8万というところが返済額としては最も多くなります。
ボーナス払いする際の注意点
次にボーナス払いについて考えてみましょう。ボーナス払いは月々の返済に上乗せして返済します。仮に月々7万円、ボーナス増額分に20万円とした場合は年2回、夏冬の約定日に27万円を返済します。
銀行で許容しているボーナス配分は年間総返済額の最大で50%、機構の基準では40%が最大です。年間の返済額が160万なら、銀行だと80万まで(夏冬で40万ずつ)増額できますし、機構は64万円までです(夏冬で32万ずつ)。
ただし、民間の会社に勤めている方は、長引く不況の影響でボーナス払いの増額は積極的に検討していません。増額できるところでも30%程度、なかには10%台に収めるように希望するユーザーも少なくありません。
銀行の規定では50%~40%で見てくれるボーナス払いですが、今では30%が推奨値だと認識しておけば間違いないでしょう。
ボーナス増額のメリットは、月々の返済額を小さく見せてくれるところにありますが、これは顧客のメリットではなく、高い物件を少しでも安く見せたい販売会社側のメリットです。顧客側もそれに気づいていますので、そのやり方を好みません。
もちろん、顧客側でも当初の月払い返済額を低くおさえたい方もいますので、はじめはボーナス配分を最大に設定しておいて、あとから低く変更するのもひとつの方法です。このあとでも触れますが、ボーナス返済の変更や配分の増減はあとからでも変更できます。
なお、ボーナス増額のデメリットは、ボーナス増額により総返済額が少し増えること。繰り上げ返済の際にボーナス分の経過利息がかかることです。
どちらも利息に関することです。ただし、総返済額が少し増えるといっても返済期間通期で数万程度のことですから、デメリットとしてあえて挙げることも恥ずかしいほどの内容です。
経過利息の方は気になる方もいるでしょう。繰り上げ返済と経過利息の関係は、当記事の後半「返済額軽減型が向く人・繰り上げ返済時の注意点」で説明しています。
返済方法や条件は変更できる?
住宅ローンの返済が困難になった場合、銀行では返済方法や条件の変更の相談を行なっています。
借りた時を思い出すと、銀行に返済方法や条件の変更はなかなか持ちかけにくいものです。しかし返済遅延をおこしてしまうと、その後の相談や交渉が難しくなります。勤め先の給与体系が大きく変わったときなどは早めに相談してみることをおすすめします。
返済方法を変更する際の手続き
返済方法を変更する際の手続きにはどのようなものがあるか、主なものを挙げてみます。
- 毎月の返済日の変更・ボーナス月の変更
- ボーナス返済の有無の変更
- 毎月の返済とボーナス返済の比率の変更
- 返済期間の短縮
- 返済期間の延長
- 一時的な元金返済の停止
1~3の変更は大抵の銀行でやってくれます。ただし、2、3の条件変更を行うと、月々の返済額が必然的に増えます。ですから、この程度の返済条件変更で済む方は、それほど深刻な状況には陥っていないはずです。
ただし、ボーナスカットや大幅な減額があった場合は、もとのボーナス増額分が多いと返済が困難なる方も出てくるでしょう。この場合はできるだけ早く所定の申請書を銀行に出すようにしてください。
4の返済期間の短縮は、ある程度まとまった額の繰り上げ返済することで、返済期間の短縮を図る方法です。返済期間の短縮を希望する方は、住宅ローンの返済が困難になったのが理由での変更ではなく、むしろ現在余裕があっての変更という方が殆どだと思います。
なかには返済に行き詰まり、仕方なく親から援助資金を得て、その結果繰り上げ返済する方もいるでしょう。ただ、そのような方は少数派ではないでしょうか。なお、期間短縮型の繰り上げ返済については、このあと記事の後半で詳しく解説しています。
5の返済期間の延長は、月々の返済額を返済可能額まで減額し、返済期間を延長する手続きのこと。いわゆるリスケジュール(通称リスケ)の一種です。手続きは銀行の担当者を窓口に、さらに上層部の方と直接折衝することになります。
一般的に返済期間の延長は、これまで正常に返済してきた年数の範囲で延長期間が決まります。また金融機関の完済年齢に掛かると、延長が難しくなることがあります。
返済期間の延長は、主債務者の年収や月収が決められた水準以下であることはもちろんですが、返済期間の延長後は継続して返済が可能であることが審査の決め手です。そのため、審査の可決は非常に難しくなることを心得ておきましょう。
6の一時的な元金返済の停止は、2年など短期間のなかで元本の支払いを猶予してもらう方法で、これも「返済期間の延長」とともにリスケジュールの一種です。手続きは「返済期間の延長」と同じです。
「一時的な元金返済の停止」は、元金返済の停止期間終了後に家計が好転する要素を証明しなければ、支払い猶予は仲々認められません。
また猶予期間が終了すれば、返済額は以前の倍近くになることもあり、結局それに耐えられるような収入構造も問われます。その意味で、審査可決のハードルは高くなります。
ただし、子どもの教育費がかからなくなる、あるいは奥様がフルタイムで仕事に復帰できることが分かっているなど、家計が好転する見通しがある程度明確になっていれば交渉は比較的進めやすくなります。
フラット35独自の返済方法の変更メニュー
住宅金融機構ではフラット35を利用している方に向けて、生活状況の変化や収入の変化が生じた場合に独自の「タイプ別」サポートメニューを用意しています。
フラット35のユーザーが返済方法の変更を希望し、これを機構が認めた場合は、下記の返済方法の変更ができます。手続きは返済中の金融機関に申し出てください。
- 振込期日の変更
- ボーナス払い月の変更
- 「毎月払いとボーナス払いの併用」から「毎月払いのみ」への変更
- 「毎月払いのみ」から「毎月払いとボーナス払いの併用」への変更
- 毎月払い分・ボーナス払い分の金額内訳の変更
- 元金均等返済から元利均等返済へ、又は元利均等返済から元金均等返済への変更
- 返済期間の短縮
参考:『返済方法の変更を希望するときは・【フラット35】』
http://www.flat35.com/user/henkou/hensai_henkou.html
これらの方法に加えて、次のような方法も用意しています。
- 返済期間の延長する(最長15年)
- 遅れている返済分を今後の返済額に加える
- 一時的に返済額を減額する
ほかにも、返済中の住宅ローンの金利を見直す方法も考えられますが、金利を見直すことは「ローン借り換え」の要素が強まります。
繰り上げ返済時の注意点
ある程度まとまった額を必要とする場合もありますが、繰り上げ返済も返済条件を変更する方法の一種です。ここでは繰り上げ返済の効果的な使い方について解説します。
繰り上げ返済には二つの方法があります。「期間短縮型」と「返済額軽減型」です。期間短縮型と返済額軽減型で効果がどのように変わるのか、またどのような人が使うと効果的なのかを解説しましょう。
期間短縮型とその効果とは
期間短縮型は繰り上げ返済の原型とも言えるもので、その名の通り「返済額を変えずに返済期間を短縮する」繰り上げ返済です。
ここでひとつの例を参考に解説します。
借入額:3000万円
金利:2.0%、長期固定、元利金等
繰り上げ返済:融資実行後から10年後に100万円を返済する計画
この条件で試算すると、繰り上げ返済による利息軽減額は約67万円。返済期間は33年7か月(1年5か月短縮)となりました。
期間短縮型は返済額軽減型に比べて、トータルの返済額を減らすことに効果的です。もともと返済期間を短縮するために考えられた繰り上げ返済ですから、総返済額を減らす効果も非常に高いことがわかります。
※返済額軽減型の「返済額」とは「月々の返済額」のことで、総返済額のことではありません
なぜこのようになるのかですが、それは返済額軽減型とは異なり、期間短縮型は返済期間を変えないという縛りを受けないからです。
返済期間を変えない縛りがあると、返済期間に均して切り取るようなイメージで、返済資金を使わなければいけません。これとは逆に、返済期間を変えても良い期間短縮型なら、金利負担が大きい返済回数が少ないうちから順番に返済額(利息と元本)を切り取れます。
先の例で、融資実行後から5年後に100万円を繰り上げ返済したとすると、利息軽減額は約86万円まで上昇します。
期間短縮型に限らず、「繰り上げ返済は、返済回数がまだ少ない早い段階で実施したほうが効果が高くなる」、と言われるのはこのためです。住宅ローンが元利均等払いの場合は特にその傾向が強くなります。
期間短縮型が向く人
最近は資金不足に陥ることを心配する傾向からか、期間短縮型の繰り上げ返済に対して消極的な意見を耳にします。
確かに、住宅ローンの返済中は、余分にみていた手持ち資金の不足には注意したいところです。ただ実際には、繰り上げ返済が効果的に使われ、その役目を果たしているのは紛れもなくこの期間短縮型です。
一般的に期間短縮型が向くのは、資金不足を憂慮しなくても良い方、家計にゆとりのある方、ローンを長く保持したくない方、ローン控除より利払いを重視したい方などです。
もちろんこれに該当しない方でも、繰り上げ資金にまわせる余裕資金があれば、期間短縮型の繰り上げ返済を実施できます。貯蓄を続けるか繰り上げ返済をするかで迷うと思いますが、当面の支出に心配がなければ実施するタイミングかもしれません。
返済額軽減型とその効果とは
返済額軽減型は、「返済期間を変えずに毎月の返済額を減らす」繰り上げ返済です。上記の例で返済額軽減型を実施した場合、繰り上げ返済による利息軽減額は約29万円です。返済期間は変わらない設定ですから35年のままですが、毎月の返済額は99,378円 → 95,255円と約4,000円減っています。
返済額軽減型が注目されたのは、これまでの繰り上げ返済にはなかった月々の返済額を減少させる効果があるからです。そのため、返済額軽減型は家計を安定させたい場合や、金利上昇時に返済額を減らしたい場合に効果を発揮します。
ここまでの説明を読むと、返済額軽減型の良い面を強調するようですが、返済額軽減型にはデメリットもあります。それは、期間短縮型にくらべると利息軽減効果がかなり落ちると言うことです。
金利や実施タイミングで利息軽減効果は変わりますが、このケースで返済額軽減型にすると利息軽減効果は期間短縮型の半分以下です
さらに、返済額軽減型は100万円を使って返済額が約4,000円減りましたが、この減少額を妥当と思うか、少ないと感じるかはその人によります。
例で、5年後に100万円を繰り上げ返済すると、利息軽減額は約35万円まで戻ります。いっぽう、毎月の返済額は99,378円 → 95,762円となり、細かく言うと返済額は4,000円からは少し減額しています。もし金利が低くなると、返済額はさらに減ってしまいます。
返済額軽減型を使おうと考えている方はデメリットにも目を向け、自分の目的に返済額軽減型が合っているか、よく考えてみることも必要です。
返済額軽減型が向く人
返済額軽減型が向く人は、長期的に数万円程度の余裕資金をプラスして返済できる人です。
返済額軽減型の正しい使い方は、「期間短縮型のように余裕資金を貯めて数年に1度返済する」、ということではありません。できる限り毎月内入れを実施します。そのため、まとまった額ではなく、余裕資金をプラスして返済するのです。
たとえばこれを、期間短縮型と返済額軽減型で、同額・同タイミングで返済を続けると、どちらも経済効果は同じになることが分かっています。つまり二つの繰り上げ返済とも、返済回数と総返済額は等しく着地できるのです。
ただ、現実的にこれを10年、20年と続けられる人はほとんどいないでしょう。こうした考察はとても興味深いと思います。でも広く多くのユーザーに、積極的には推奨できる方法ではありません。
もちろん返済額軽減型は、現実的に返済額を減らせます。そのため、一時的に数千円でも返済額を調整したい方に返済額軽減型はすすめられます。
金利上昇時に返済額を減らしたい方などは、まさに恰好の使い手となるでしょう。こういう使い方なら、まとまった額を繰り上げ返済するやり方で大丈夫です。なお、返済額軽減型は実施回数が多くなるため、繰り上げ返済手数料がかからない口座がどうしても必要です。
とくにネット銀行の口座は少額返済もできますし、ボーナス払いを使っていなければ、繰り上げ返済を約定日に実施することで経過利息もかかりません(※1)。ネット銀行は返済額軽減型と、好相性の関係と言えるでしょう。
※1 経過利息とは、前回の返済日の翌日から繰り上げ返済日までに掛かる利息こと。繰り上げ返済を約定日に実施すれば、経過利息は二重に掛かりません。ただし、ボーナス増額返済がある場合は、別途ボーナス増額分の経過利息が加わりますので注意してください。
まとめ
住宅ローンの返済で注意することを、色々な角度で話して来ましたが、ここで取り上げなかったことの中で大切なことがひとつ残っています。それは貯蓄です。
ローンを抱えての貯蓄が大変なのは当たり前ですが、家計状況が急変しても慌てないでいるためには、余裕(貯蓄)が必要です。その意味では貯蓄は保険ですし、流動性の面で最も使い勝手の良い保険は現金による貯蓄とも考えられます。
記事本文でも、「資金」や「余裕資金」という言葉が出て来ました。言い換えればこれらもすべて貯蓄です。
家計が苦しくなってからの対策では遅すぎます。安定している時こそ頑張り時です。貯蓄もその対策のひとつであることを忘れずに、無理せず返済できる計画を立てていきましょう。